ライフスタイルや考え方が多様化し、「個」を尊重する働き方が増えています。多様性を重視する社会だからこそ、他人を認める姿勢が重要ですよね。
しかし、残念なことに他人を理解できずトラブルが発生している現実もあります。最近、「ハラスメント」という言葉を耳にする機会が増えてきたと思いませんか?
今回はそのなかから「マタニティハラスメント」について考えてみましょう。赤ちゃんが産まれること、本来は喜ばしいことです。その反面、周囲との関係性で悩む人も少なくないのが現実です。
この記事では、マタニティハラスメントに遭遇したときの対処法、そして防止するために心がけたいことをご紹介します。
目次
マタニティハラスメントとは
マタニティハラスメントとは、妊娠・出産・子育てを理由に嫌がらせや不当な扱いを受けることです。妊娠中や出産後、育児中である女性の同僚に下記のようなことが起こったら、マタハラに該当する可能性があるかもしれません。
・心無い言葉をかけられる
・減給や降格処分を下される
・退職を促される
以前は出産が決まると女性は仕事を辞め、育児に専念することが一般的でした。現在は仕事と育児を両立させる女性が増えている一方、それに会社や周りの人が対応できずにマタニティハラスメントが起きているのでしょう。
マタニティハラスメントを禁止するために、国でガイドラインが制定されています。
マタニティハラスメントは違法⁉
マタニティハラスメントは男女雇用機会均等法及び育児・介護休業法で禁止されています。そのため、マタハラが発生した場合、違法となるのです。
近年では、妊娠・出産を経て復帰後に降格扱いや無理な異動など、不当な扱いを受けた女性が訴えを起こしたケースも。
下記のページで紹介されている事例では、いずれも女性労働者の勝訴または和解という結果に終わっています。
参考:労働問題弁護士ナビ「マタニティハラスメント(マタハラ)裁判3事例」
妊娠・出産・育児を理由に女性従業員が不利になるような扱いをしていないか、配慮する必要があります。
マタニティハラスメントが起こる原因
マタニティハラスメントにより罪に問われる可能性があるとわかりました。では、なぜマタハラが起こってしまうのか、原因を考えてみましょう。
マネジメント層の理解がない
マネジメント層の理解が得られないことが理由にあたる場合があります。そんな管理職には、下記のような背景があるのではないでしょうか。
・子供を持ったことがなく、育児の経験がない
・パートナーに育児を任せっきりにしていた
マネジメント層に理解がない場合、下記のようなことが起こり得ます。あなたの職場でも、似たようなことは起こっていませんか。
・妊娠中の体調不良である状態にもかかわらず、休暇や休憩が認めない
・保育園に子供を預けられず待機児童となってしまった場合、退職をほのめかす
・保育園の送り迎えで早退する際、嫌味な発言をする
育児経験がなければ、苦労や悩み事を想像するのは難しいでしょう。しかし悩んでいる社員がいる以上、「想像がつかない」ではすまされません。その場合は経験者の力を借りて、理解を得る機会を設けてはいかがでしょうか。
社内の相談窓口や同僚と力を合わせ、理解を得られるよう行動してみることも有効かもしれません。
従業員・同僚の理解がない
マネジメント層と同様ですが、やはり妊娠・出産・育児の経験がないことが理由に上がります。
例えば、女性従業員が妊娠した場合、上司は本人の体調に配慮して業務量を減らすことがあります。その分の業務は他の従業員に割り当てられます。「頑張って元気な赤ちゃん産んでね」と応援できる従業員であれば問題ないでしょう。
しかし、「あの人の仕事が自分にまわってきた!」と不満に感じる従業員は要注意です。その不満を女性従業員本人にぶつけてしまわないよう、配慮が必要です。
妊娠・出産・育児を皮切りに、同僚との関係性がギクシャクしてしまうのは悲しいことです。普段から相談しやすい環境・関係性を作る必要があります。
環境が整っていない
妊娠・出産・育児にまつわる法整備は進んでいますが、会社レベルでは運用の実績が少ないのが現実です。経営陣・人事担当者も経験がなく、慌ててしまうこともあるでしょう。
当の本人も、「無事に出産を迎えられるのか」「本当に復帰できるのか」と不安に感じています。
例えば、この不安をぬぐえずに女性従業員が退職してしまうと、マタニティハラスメントと取られる可能性があります。
安心して出産・復帰してもらうために、妊娠中の女性や周りのチームメンバーにも配慮したルールや体制を整備する必要があるでしょう。
マタニティハラスメントの事例
マタニティハラスメントが起こる原因が見えてきたところで、現実にはどんな事例があるのでしょうか。
心ない発言をする
妊娠を引き合いに出した妊娠・出産・育児中の女性従業員への以下のような発言は、ハラスメントにあたります。
「繁忙期に重なる時に妊娠して、何を考えているんだ」
「私が代わりに仕事をしているんだから、ありがたく思ってよね」
「時短勤務だから、楽でいいよねえ」
妊娠すると体調の変化もあり、激しい痛みを伴う出産を控えてただでさえ不安が多いはず。「仕事に迷惑がかかってしまう」と、本人が一番思っているでしょう。
そのような思いを想像せず、自分のことだけを考えて上記のような発言をするのはハラスメントにあたります。言った本人には悪気がなかったとしても、本人は傷ついているかもしれません。
楽をしたいために、女性従業員自身も業務量を減らしたわけではないはずです。自分にしわ寄せがきたからといって、本人へ悪意をぶつけてはいけません。
待遇を下げる
妊娠・出産・育児は、仕事との両立が大変です。業務に従事する時間や機会が減ることにより、待遇を下げてしまうケースもあるようです。
しかし産休や育休、つわり休暇は法律で認められています。(一部条件あり)それにも関わらず以下のような対応をした場合、ハラスメントになるでしょう。
・降格
・減給
・解雇
・業務契約形態の変更(正社員からアルバイトへ、など)
女性従業員から相談があっての対応であれば、とくに問題はないかもしれません。しかし、一方的に会社側から突きつけるようでは、「妊娠・出産・育児を理由に不当な扱いを受けた」とマタハラと認定されてしまう可能性があります。
女性従業員から相談があっても、「同僚から心無いことを言われる」「仕事を任せてもらえない」など、裏には別のマタハラが隠れているかもしれません。
不当な人事異動を行う
妊娠・出産・育児を理由に本人の望まない人事異動が発生すると、これもマタハラと取られる可能性があります。
例えば「復帰しても営業や接客の現場で働き続けたいのに、事務職に異動になってしまった」というケースがあるようです。これまで営業職や接客業で活躍してきた女性従業員には、モヤモヤが残るでしょう。
「明らかに働き続けられないような環境の部署に異動が決まった」というケースは要注意。例えば妊娠中であるのに、夜勤や休日出勤を伴う部署を異動となった場合です。退職を仕向けるために無謀な人事異動を行う事例があります。
配慮のない対応をする
妊娠・出産・育児中の女性従業員への発言に配慮していても、接し方はどうでしょうか。知らず知らずのうちに、困らせてしまっている可能性があります。
・重い荷物を運ばせる
・立ち仕事をさせる
・目の前でタバコを吸う
・お酒をすすめる
・無謀なスケジュールを組む
妊娠中は歩くだけでも体に負担がかかります。
妊娠中は母子ともに不安定な状態でもあるため、普段以上に健康に気遣う必要があるのは誰でも知っているはず。それにも関わらず上記のような対応をするのは、ハラスメントです。
「自分は管理職じゃないから人事異動や待遇は業務で下さないし、マタハラに該当することはなさそうだな」と思っていませんか。普段から相手のことを思いやる気持ちがあれば、回避できる可能性は十分にあります。
マタニティハラスメントへの対処法
マタニティハラスメントに気付いてしまったら、どうすればいいでしょうか。対処法はいくつかあります。あらかじめ知っておくと、いざというときに素早く対処できます。
経験のある社員とのコミュニケーションを促進する
経験者の声は説得力があり、女性従業員自身の不安やストレスを解消するためにも効果的な方法です。過去に同じ道を通った先輩だからこそ、共感するものもあるでしょう。
性別問わず育児経験のある人を紹介して、悩みや不安を解決する方法も有効かもしれません。育児経験のある社員が多い場合、相談会のような場を設けても良いでしょう。
本人が「マタハラかも?」と抱え込んでいるとき、周囲が教えてあげることで早期発見・解決が期待できます。
妊娠・出産・育児経験のある社員と気軽に相談できる環境をつくっておくことで、マタハラが起こっていない状態でも安心して女性従業員が働ける効果があります。
社内相談窓口に相談する
勤務先に相談窓口はあるでしょうか。厚生労働省では、この相談窓口の設置を企業に呼びかけています。積極的に活用しましょう。
マタハラが疑われる言動を記録しておくと、相談時の有力な証拠となります。人事部など、担当の部署が間に入って解決してくれるはずです。事実確認を行い、マタハラに該当する言動をした本人への調査・措置が下されます。
また、再発防止策を検討・実施することも厚生労働省の呼びかけの中に含まれています。再発防止策が社内で徹底されることとなれば、安心して働き続けられそうですね。
労働局に相談する
労働局に相談をする方法もあります。同僚や先輩、上司や社内窓口を利用しても状況が一向に良くならない場合には、検討してみましょう。女性従業員の代わりに事実確認を行い、勤務先へ法律や制度の説明を行ってくれます。
場合によっては、解決のために間に入ってくれるケースもあります。
相談料は無料で、相談者本人のプライバシーは守られます。どうしても解決できないときには、勇気をもって相談してみるとよいでしょう。
加害者にならないために!マタニティハラスメント対策
マタニティハラスメントは、女性も男性も加害者になってしまう可能性があります。加害者にならないよう、対策できることがあります。
妊娠中の社員の権利を理解する
妊娠・出産・育児のいずれの場合においても、女性従業員がこれまでと変わらず働き続けられる権利があります。
国においても、以下のように定められています。
事業主は、その雇用する女性労働者が妊娠したこと、出産したこと、その他の妊娠又は出産に関する事由であって厚生労働省令で定めるものを理由として、当該女性労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。(男女雇用機会均等法第9条第3項)
産休・育休の取得はどの契約業態でも認められていますし、妊娠を理由とした解雇は無効です。
本人の希望を考慮しながら、業務配分を検討・決定するといいでしょう。女性従業員が復帰後に活躍できるよう配慮したいものですね。
妊娠中の悩みを知る
女性従業員がどんな悩みを抱えているのか、それは一概に言えません。
悩みといっても、体調面や仕事面など人によってさまざまです。つわりの酷い女性もいれば、そうでない女性もいます。パートナーと協力して仕事を続けられる環境のある女性もいれば、家族から支援を受けられない女性もいます。
以下のようなことから、妊娠中の女性に配慮した発言・行動をできるようになりましょう。
・困っていそうなことを想像する
・声をかけたり、手を差し伸べる
・妊娠、出産、育児について調べる
・経験者の話を聞く
知識・経験不足は調べるなどしてうめていきましょう。しかしその人特有の悩みがあることも忘れてはいけません。この点を無視して接してしまうと、気付かないうちに傷つけてしまうことがあります。
本人に尋ねることも有効ですが、根掘り葉掘りたずねると嫌がられてしまう可能性もあります。ほどほどで抑えておきましょう。
失礼な言動に気を付ける
管理職であっても一般社員であっても、妊娠・出産・育児に頑張る女性従業員と関わる機会は十分にあります。その際に、女性従業員が気分を害してしまうような発言は避けましょう。
先の「マタニティハラスメントの事例」でもご紹介していますが、他にも下記のような発言は注意が必要です。
「うちには育休も産休もないよ」
「待機児童になったら、復帰できないよね?」
マタニティハラスメントとは違いますが、下のような発言も十分にハラスメントにあたります。
「妊娠したら人が足りなくなるから、まだ妊娠しないでね」
普段から相手のことを考慮して接している人であれば、難しいことではないでしょう。気持ちのいいコミュニケーションはどんなときも大切です。
妊娠中の社員以外も働きやすい環境を整備する
女性従業員が妊娠したとき、少なからず周囲の従業員にも影響が起こり得ます。女性従業員から業務を引き継ぐ人もいれば、「私が将来妊娠したとき、会社は同じようにフォローしてくれるんだろうか」と不安に思う人もいるでしょう。
また復帰を待つ間、代わりに仕事を引き受けてくれる従業員がいます。彼らにも業務負荷を軽減する等のケアも忘れずに行いたいですね。
以下の6つのような環境を整備しておくと、マタハラを防げるはずです。
産休前のケアや引継ぎ
産休を取得する前に、引継ぎを行うよう徹底しましょう。引継ぎをしっかり行い「不在中も安心だ」と思ってもらうことで、女性従業員本人も安心して産休に入ることができます。
女性従業員が不在中の同僚たちのケア
産休中の女性従業員の代わりに業務を引き継いだとき、その従業員には業務負荷が多く発生します。引き継いだぶん元々の業務量にプラスされるためです。
このことを引き継いだ本人がネガティブな気持ちを抱かないよう、「助かっているよ」「頑張っているね」など声をかけるとよいでしょう。
出産後から復帰までの支援スケジュールを計画
出産から、どのような流れで復帰するのか、スケジュールを立てましょう。出産後の育休中は、職場と離れて孤独に感じる女性も少なくありません。
支援スケジュールを立てることで、復帰への不安払拭する目的があります。下記のような内容を盛り込んでみてはいかがでしょうか。
復帰までに面談設定
保育園、ベビーシッターの補助(保活や料金の支援など)
育児中の時短勤務
育児とキャリアを両立したいと考える女性は、できることなら「仕事は辞めたくない」とかんがえていることでしょう。
その手助けをできる施策として、時短勤務があります。両立するうえで、例えば保育園への送り迎えはつきものです。女性従業員自身も時間内に業務を終わらせる努力は必要ですが、周囲の従業員からの理解も必要です。
マタニティハラスメントはどの職場でも起こり得る
マタニティハラスメントの被害者は女性のみですが、加害者は女性も男性も関係ありません。
マタハラはどの職場でも発生する可能性があり、もはや個人の問題ではなく職場の問題とも言えるでしょう。もしマタハラを目撃したら、正々堂々と「NO」と言えるように心がけたいですね。
みんなが気持ちよく働けるために、普段から良好なコミュニケーションをとり、何があっても協力し合える職場を作っていきたいものです。
マタハラ以外にも!あなたはいくつ知ってる?職場で起こり得るハラスメント
マタハラ以外にも、職場ではさまざまな種類のハラスメントが起こり得ます。例えば以下のハラスメントを知っていますか?
・パワーハラスメント(パワハラ)
・モラルハラスメント(モラハラ)
・パタニティハラスメント(パタハラ)
・レイシャルハラスメント(レイハラ)
・ソーシャルハラスメント(ソーハラ)
・ハラスメントハラスメント(ハラハラ)
「自分は大丈夫」と思っていても、知識不足だと被害者にも加害者にもなる可能性が高まります。被害者、そして加害者にならないように、以下の記事をぜひチェックしてみてください。
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・周りの目が気になる人
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・引き止められて辞められない人
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このような人は、退職代行を利用すればスムーズに辞められるでしょう。きっとストレスからも解放されるはずです。
不安な場合は、まずは退職代行サービスに相談してみましょう。 安全に利用できるおすすめの退職代行は「【2022年徹底比較】退職代行おすすめ人気ランキング29選」の記事で紹介しているので、ぜひ参考にしてみてください。