「パタハラ」とは「パタニティ・ハラスメント」の略で、育児制度を利用しようとする男性従業員が職場などで受けるハラスメントです。
男性の育児参加への社会的期待が高まっている一方で、実際に育児に関する制度を利用する父親はまだ少ないのが現実。
追い打ちをかけるように会社側の準備不足や管理職の理解の無さから、育児制度を利用しようとしても「パタハラ」を受ける人が増えています。
この記事ではパタハラの定義や具体例、会社で取り組むべき理由やパタハラを受けた時の対策を紹介していきます。女性も男性も仕事と育児の両立ができる社会を目指しましょう。
目次
パタハラとは
パタハラとはこのように定義されています。
男性社員が、育児休業など育児のための制度を利用する際に、同僚や上司などから妨害を受けること。
参考:新語時事用語辞典
男性社員が育児休暇の申請をしようとすると減給をほのめかされる、職場復帰後の人事異動で不利益な職務になる、などがパタハラに当たります。
パタハラの実態
パタハラの大きな原因となっているのは「育児は女性がするもの、男性は仕事をしていれば良い」という固定観念。その結果、育児に参加しようとする父親に対してハラスメントが起きてしまっているのです。
実際に育児休暇を希望していても、取得できなかった人は30%。その結果、男性の育児休暇取得率はたった6.16%だそう。
参考:厚生労働省 雇用均等基本調査 平成29年度仕事と育児の両立に関する実態把握のための調査研究事業
日本労働組合総連合会がまとめた調査結果によると、子どもがいる人の約10%がパタハラを経験、全体の約10%が周囲にパタハラにあった人がいると回答しており、職場でよくあるハラスメントの1つと言えるでしょう。
パタハラを経験した人の65.6%が「だれにも相談せず、子育てのための制度の利用をあきらめた」と回答しています。
現状は、身近なハラスメントにも関わらずその対応についてはあまり知られていないため、我慢している人が多いということでしょう。
参考:日本労働組合総連合会|パタニティ・ハラスメント(パタハラ)に関する調査
2010年新語・流行語大賞トップ10に「イクメン」がランクインし、政府も制度を整えていますが、実際の現場との温度差があるといえます。
パタハラが起こる原因
パタハラが起こる原因としては次のようなことがあげられます。
ジェンダー観の押し付け
ジェンダーとは、社会的につくられた性別のこと。
「育児なんて男らしくない」
「家庭の問題は女性のもの」
これらは生物的な男女の特徴ではなく、社会的に意味づけられたものであり、「男女の役割」を勝手に決めつけています。
特に現代では女性が産休復帰後も働ける会社も増加しており、男性も育児に「参加」ではなく一緒に行う姿勢に変化しつつあります。
しかしパタハラを行う人は「女性/男性は~べき」と決めつけて、そこに反する人は認めようとしないのでしょう。
周囲の理解不足
パタハラが起こる一番の原因は、周囲の理解がないことです。結婚・出産後の女性が活躍するようになった現在でも、未だに「育児は女性がするもの」「男性は仕事をするのが役目」という固定観念は根強く残っています。
現在管理職についているのは、そのような育児制度がなく、当然のように子育てよりも仕事を優先してきた人だからかもしれません。
育児制度を利用せずに子育ての時期を過ごした人に、男性の育児参加について理解を得るのは難しいこともあるでしょう。
その結果休業申請をしようとすると「女性のみが取ればよい」「出世コースから外れたいのか」などと言われるのかもしれません。
未熟な企業体制
会社の体制が整っていないと、パタハラは起こりやすいでしょう。
前例がないと、男性社員が育児休業をとるのは職場としても戸惑うかもしれません。代わりがいないなど体制が整っていなければ、全体の業務に支障が出ることも考えられます。
その不安が原因で休業を申請する社員に嫌味を言うなども、ハラスメントとなってしまいます。
育児休業に関する知識不足
男性女性に関わらず、育児休業の取得に関する制度をよく知らないために、ハラスメントになってしまうこともあります。
会社の規定に関わらず、育児休暇の申請は「育児、介護休業等育児又は家庭介護を行う労働者の福祉に関する法律」いわゆる「育児介護休業法」で誰もが認められている権利です。
その内容について具体的に知らないために、「申請を認めない」「復帰後の職務内容の変更」などのハラスメントが起きるのかもしれません。
参考:厚生労働省 育児・介護休業制度ガイドブック
パタハラの具体例
実際にどのようなものがパタハラにあたるのか、具体例を紹介していきます。
育児のための制度利用を認めない
育児休業の取得や短時間勤務の申請など、男性社員が育児のための制度を利用しようとすると「他の社員に迷惑をかける」などを理由として諦めさせる行為は、ハラスメントにあたります。
制度の利用については「育児介護休業法」で認められています。いくら上司といえども、認めないのは法律的にもNGです。
育児のための制度利用を諦めさせる
「休まれると迷惑」
「男性の育児休業など前代未聞」
育児休業を申請しようとする男性社員に対する、これらの言葉もハラスメント。降格や減給をほのめかす上司の発言も同様です。
育児に積極的に参加しようとする男性社員の精神的な苦痛に与える言動とみなされます。
育児休業明けの男性社員に対し不利益な人事を行う
会社を提訴するなどの事例の中には、育児休業後の不利益な人事(配置転換、転勤、異動、降格、減給)が行われたケースがあります。
2019年アシックスの男性社員が東京地裁に提訴したケースでは、1年間の休業後は物流センターへの出向を命じられたそうです。
弁護士と相談したあと、勤務地は倉庫から本社に戻ったものの、必要性の低い業務を担当する状況に置かれたため提訴に踏み切り、パタハラと戦っています。
参考:BUSINESS INSIDER【直撃】今も午後3時に退社、パタハラでアシックスを訴えた男性のその後
パタハラへの対処法
育児休業の申請をしようと思ってもパタハラを受けてしまうかも、と不安になると躊躇してしまうかもしれません。個人でできるパタハラの対処法を紹介します。
自分にとっての育休の必要性を明確にする
申請する前に子育てに関する自分の意見をまとめておくことが大切です。自分にとっての育児休暇の必要性や必要な時期・期間などを明確にしておきましょう。
申請の受理を渋られたり、職場で嫌味を言われたりしても、自分の意見をしっかりまとめてあれば焦ることはありません。
早めに相談する
申請しようと思ったら、引継ぎに十分な時間をとれるように早めに相談しましょう。信頼できる上司になら自分の子育てに対する考えも素直に伝えられ、なるべく大きな影響が出ないようにアドバイスしてもらえるかもしれません。
もしハラスメントを上司から受けてしまいそうな状況であれば、人事担当など休業取得申請の担当部署に相談すると良いでしょう。
お礼と謝罪の気持ちを伝える
育児休業の申請が受理されたら、理解を示してくれた上司や職場の同僚に感謝の気持ちを伝えましょう。休業中は少なからず業務の負担をかけてしまうかもしれないので、その謝罪の気持ちも忘れずに伝えることが大切です。
休業前の丁寧なコミュニケーションが復帰後の職場の居心地の良さにつながると考えましょう。
記録をとる
上司や同僚からハラスメントを受けてしまったら、忘れずに記録をとっておきましょう。
・日付
・場所
・その場に同席した人物
・ハラスメントにあたる言動
など
客観的な事実を記録しておくと、後に相談するときの資料として役に立ちます。
社外機関に相談する
ハラスメントで悩んだ時の相談相手としては上司や担当窓口が考えられますが、パタハラは上司や担当窓口など休業申請を受理する側から受けることも多いでしょう。
その場合は社外の機関に相談できます。電話やメールで誰でも相談できる機関で、もちろん、守秘義務があるので安心して相談できるでしょう。
パタハラの相談:育児休業法等に関する相談に応じる雇用環境均等(部)室
パタハラ対策
会社として行うべきパタハラ対策を紹介します。
男性の育児への参加に大きな関心が寄せられている今、育児休暇を認めない悪質な企業とみなされると評判が低下し、ダメージをうける可能性もあるでしょう。
会社がパタハラ対策を行っているとわかれば、安心して男性従業員も育児に参加できます。
周囲への理解を促す
パタハラが起こる大きな原因は男性の育児参加に対する理解不足です。「女性は子育て、男性は仕事」という固定観念を変えていくには、会社全体で対策することが必要になるでしょう。
例えば
・経営方針として男性の育児休業取得を推進することを明らかにする
・就業規則やその他社内の規定で育休制度を構築する
・社内講習会を開く
会社の方針を明らかにすることで、直属の上司に理解がない場合でもパタハラを受けずに制度を利用しやすくなるでしょう。
また、社内講習会を開くことで制度の理解の浸透を促せます。当事者にならないと、休暇取得について具体的な内容はわからないかもしれません。
休業申請をする側も受理する側も共通の理解をしておくことが、ハラスメントをなくす対策になるでしょう。
ロールモデルを紹介する
社内研修会などで男性の育児参加について情報を共有する際には、ロールモデルを紹介することも参加を促すきっかけになります。
ロールモデルとは、実際に休業した人が復帰後どのように働いているかを紹介するもの。これから取得を希望する人にとっても、職場にとっても具体的に将来像を描くことができ、参考になるでしょう。
イクメン企業アワードに参加する
「イクメン企業アワード」は男性の仕事と育児の両立を促進し、業務改善も図られている企業を表彰するもの。2013年から厚生労働省が実施しています。
このアワードにより男性の育児参加に会社が積極的であることがわかるので、男性も育児参加を表明しやすくなるでしょう。
さらに2014年からは部下の仕事と育児の両立を支援する上司を表彰する「イクボスアワード」も始まっています。このようなアワードに参加している会社は育児制度の利用に対するハラスメントは起きにくい環境と言えるでしょう。
子育て推進企業の認定を受ける(「くるみん」マークの取得)
「くるみんマーク」とは、「子育てサポート企業」として、厚生労働大臣の認定を受けた証のこと。このマークを広告などに表示し、高い水準の取り組みを行っている企業であることをアピールできるのです。
くるみんは取得のために達成しなければならない数値があり、計画書の提出なども求められます。取得は目的ではなく、あくまで手段。取得に向かって改善していくうちに、だんだんと両立しやすい職場になっていくでしょう。
まだ取得していない会社はくるみんの応募事項を見ておくだけでも、「何が足りていないか」「どんな指標を達成していれば、育児しやすいと言えるのか」が理解できるでしょう。
参考:厚生労働省 くるみんマーク・プラチナくるみんマークについて
正しい知識をつけてパタハラに対処しよう
パタハラは、男性の育児参加が広まってきたからこそ起こってしまったハラスメント。仕事と育児を両立させるための制度をよく知らないことが原因の1つになっています。
正しい知識を身につけて、制度を大いに利用して仕事と育児を両立させましょう。
また、女性に対するマタニティハラスメントも合わせてチェック。パートナーも同じように職場で苦しんでいないか、お互いに悩みを話して一緒に解決しようとする関係になれたら良いですね。
パタハラ以外にも!あなたはいくつ知ってる?職場で起こり得るハラスメント
パタハラ以外にも、職場ではさまざまな種類のハラスメントが起こり得ます。例えば以下のハラスメントを知っていますか?
・パワーハラスメント(パワハラ)
・モラルハラスメント(モラハラ)
・ラブハラスメント(ラブハラ)
・マリッジハラスメント(マリハラ)
・マタニティハラスメント(マタハラ)
・ハラスメントハラスメント(ハラハラ)
「自分は大丈夫」と思っていても、知識不足だと被害者にも加害者にもなる可能性が高まります。被害者、そして加害者にならないように、以下の記事をぜひチェックしてみてください。
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このような人は、退職代行を利用すればスムーズに辞められるでしょう。きっとストレスからも解放されるはずです。
不安な場合は、まずは退職代行サービスに相談してみましょう。 安全に利用できるおすすめの退職代行は「【2022年徹底比較】退職代行おすすめ人気ランキング29選」の記事で紹介しているので、ぜひ参考にしてみてください。