「自己効力感」の言葉を聞いたことはありますか。心理学者バンデューラによって提唱された心理学用語ですが、ビジネスにおいても大きなメリットがあるため自己効力感は注目されています。
「自己効力感って一体どういう意味?」
「自己肯定感と同じ?」
「自己効力感 初心者」に向けて、相談員としての職務経験がありメンタルケアの知識もある筆者が詳しく解説します。
この記事を読み終わる頃には「自己効力感って難しそう」という不安から「絶対に自己効力感を高めよう!」との気持ちになっているはず。
自己効力感が高いメリットを知って、ぜひ身につける方法を日常に取り入れてください。
目次
自己効力感とは
自己効力感について詳しく解説していきます。
自己効力感とは、自分の力を信じること
自己効力感(Self-Efficacy)とは「自分にはできる力があると感じている感情」のこと。心理学者アルバート・バンデューラ(Albert Bandura)によって提唱された言葉です。
例えば新しいことや難しいと想像されることに挑戦しようとするとき、誰もが不安を感じるものですね。
「失敗したらどうしよう」
「心身共に大変になってしまうかも」
このような不安が大きくなると、挑戦を諦めて行動にはつながりません。
自己効力感を持つ挑戦できる人はこの不安な気持ちよりも「自分にはできる力がある!やってみよう!」という気持ちの方が大きくなるために行動に移せるのです。
生きることは行動すること。ビジネスももちろん行動力がなければ進めませんね。「自己効力感」が「行動力」「挑戦力」「ストレス耐性」を物語る指標になり得るので、ビジネスで注目されているのです。
自己効力感があればビジネスチャンスも広がり、自分のビジネススキルも向上できるようになります。難しい局面に対しても「何とかできる」と信じて取り組めるため会社にとって有力な人材と考えてもらえるでしょう。
自己肯定感との違い
自己肯定感とは「自己肯定していると感じている感情」のこと。「自分はこれで良いのだ」と自分の存在価値を肯定的に認知していることを表します。
何かに挑戦しようとする自分もOK、挑戦を諦める自分もOK、どんな自分でもOK、と自分を肯定する感情です。「自分はできると感じている感情」である自己効力感もそもそも自分の存在価値を認めていないと出てきません。
自己肯定感が高いからこそ、自己効力感を高めることができるのです。
自己効力感の2つの要素
自己効力感の要素として2つの概念があります。
結果予測(Outcom Expectation)
「ある行動をしたらある結果が出る」と予測すること。
1ヶ月筋トレをする(ある行動)
↓(すると…)
筋肉がつく(ある結果)
このように行動が結果につながっていると思うことです。
効力予測(Efficacy Expectation)
「ある結果を生み出すために必要な行動を実行できる」と予測すること。
筋肉がつく(ある結果)
↑(そのために…)
1ヶ月筋トレをする(必要な行動)
↑(自分がやれることは…)
1ヶ月間毎朝50回の腹筋運動を続けられる(実行できる)
このように結果につながる行動を自分はできるだろうと思うことです。
「やればいいだけだってわかっているけど、できない」と悩む人は結果予測はできていますが、効力予測ができていません。
反対に「毎日やっているこの仕事は何につながるんだろう」と疑問を抱いている人は効力予測を部分的にしかできておらず、結果予測につながっていません。
このようにどちらか一方の予測だけでは「自分はできる」と感じられず、自己効力感は高められないのです。次にあげる4つの情報を使って結果予測と効力予測をうまく結びつけられると自己効力感が高まっていきます。
自己効力感に影響を与える4つの情報
自己効力感に影響を与える4つの情報があると言われています。これらの情報によって自己効力感は高められるのです。
直接的達成経験
自己効力感に最も影響を与える情報が「直接的達成経験」。実際に経験した成功のことです。特に労力や時間をかけて達成できた経験は大きな自己効力感につながります。
・寝る間も惜しんで勉強した甲斐あって、無理と思われていた難関大学に合格した
・何度も足を運び、顧客に熱意を伝え続け、成約してもらえた
このように自分の行動が結果につながった経験により、結果予想も効力予測も高められるため大きな自己効力感が生まれます。「次も努力すれば達成できる」と自分を信じることができ、新たな挑戦に挑めるのです。
代理経験
「代理経験」とは自分ではなく自分と似ている他人の成功体験を観察することによって得られる情報のこと。
野球の試合観戦に熱が入って、バッターと一緒に腕をスイングしてしまった経験はありませんか。他人の様子を注意深く観察していると自分がその行動をしていると脳が勘違いを起こしてしまうのです。
特に自分と似ていると感じた人には親近感を抱くので、その人の行動を自分のものに感じやすくなります。自分と似ている他人の成功体験を自分のもののように捉えることで「自分もできる」と思えるようになるのです。
言語的説得
ポジティブな言葉も自己効力感に影響を与えます。
周囲から「君ならできる!」と何度も言われているうちに、本当にできるような気持ちになった経験を持つ人は多いのではないでしょうか。言葉により効力予測が高まり自己効力感が高まるのです。
ビジネスシーンにおいては「今やっている仕事は実はこの仕事に繋がっている」と上司から聞かされて初めて結果予測が実現し、自己効力感が一気に高まる人もいるかも知れません。
周囲からの言葉やアファメーションを活用した自分自身への言葉によって自己効力感は高められるのです。
*アファメーション:自分に対する思い込みづくりのこと。ポジティブな言葉を言ったり、見たり、聞いたりすることで自分に「できる」と思い込ませる効果がある。
生理的・情動的喚起
自己効力感には心身の状態も大切です。ストレスや不安を抱えた状態では自己効力感は高まりません。不安で自信を失っていると結果予測はできても「どうせ自分にはできない」と効力予測が難しいのです。
体調が悪いときにも「自分には何でもできる」とは思えませんね。心身とも健康な状態であれば自己効力感を高められるでしょう。
また成功体験の時の興奮を思い出すだけでパワーが湧いてくる気分になることもあります。景色や匂い、音など五感の記憶によって成功体験を思い出し、結果予測や効力予測が高まるので自己効力感が高まるのです。
自己効力感を高めるメリット
自己肯定感を高めるとどのようなメリットがあるのでしょうか。
チャレンジ精神が旺盛になる
自己効力感が高くなると失敗を恐れず挑戦できるようになります。
新しいことや難しそうなことにチャレンジするのは誰もが不安になりますね。しかし自己効力感が高い人は「失敗したらどうしよう」と考えず「自分ならできる!」と信じているので挑戦できるのです。
挑戦してみて、もし困難な状況に陥っても「自分にはきっと対処できる」と考えるため、諦めずに対処法を探ってその状況を打破するでしょう。
何度もチャレンジすることにより、新しい道が開け、ビジネスチャンスも自分の世界も広がっていきます。
コミュニケーション能力が高まる
自己効力感が高いことは人間関係においてもメリットがあります。仕事を共にする人はいつでも自分と相性の良い人ばかりとは限りません。気が合わない人と仕事をしなければならない場面もあるはず。
自己効力感が高い人は相手をよく観察し、円滑にコミュニケーションをするための対処法を探るでしょう。
コミュニケーションがビジネスに大切なことを理解しているだけでなく、自分ならどんな人とでもコミュニケーションがとれるという自己効力感が高いからこそできる努力です。
目標を達成できやすい
目標を達成しやすくなることも自己効力感が高くなるメリット。自己効力感が高いと失敗や辛いことがあっても「必ずやり遂げられる」と信じているため、途中で諦めません。目標達成する確率はあがるでしょう。
またその前向きな姿勢を見て、周囲にも熱意が伝わり協力者が増えることでスキル不足も補える可能性もあります。難しく思える目標でも自己効力感が高いと達成できる可能性が出てくるのです。
レジリエンスが高まる
レジリエンスとは「ストレスに負けずに跳ね返して回復できる力」のこと。自己効力感が高い人はストレスがかかっても「自分は負けない」と信じているため、ストレスを回避せず対処しようとします。
ストレスに対処できた成功体験がさらに自己効力感を高め、ますますレジリエンスが高まっていくでしょう。
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自己効力感を高める方法
自己効力感を高めるには4つの情報を増やす方法が効果的です。ここでは日常に取り入れやすい具体的な方法を紹介します。
成功体験を書き出す
自己効力感に最も影響を与えるのは自分の成功体験です。そこで過去の成功体験を思い出し、書き出してみましょう。
書き出すことで「自分はこんなに成功した」とできる自分を確認でき、自己効力感、特に効力予測を高める効果があります。
どんな小さなことでも成功体験として書き出してOK。ノートやスマホのメモアプリを使って可視化しましょう。成功した結果とともに次のような項目も合わせて書くとさらに自己効力感が高まります。
・成功までの努力、苦労、挫折
・その時々の自分の感情
・周囲から言われた言葉
・記憶に残る景色
上手く自己効力感を高めるには「挫折があってもそれを乗り越えて成功した」と一連の流れで書き出すことです。
挫折したところで作業を中断してしまうと、まだ自己効力感が高まっていないので挫折の時の感情が自己効力感を抑え込んでしまう恐れがあります。
苦労や挫折などマイナスイメージを想起した場合は、必ずその後の成功までを思い出して書き出すようにしましょう。
アファメーションを活用する
アファメーションとは「言葉による思い込みづくり」のこと。自分自身に肯定的な言葉を言ったり、書いた言葉を見たり、聞いたりすることで自己効力感を高められる方法です。
・肯定的な表現にする
「寝坊しない」ではなく「早起きする」
・許可を出す表現にする
「辛いことから逃げない」ではなく「逃げたい時は休憩してもよい」
アファメーションを行うことで言語的説得が影響するので、自己効力感が高まっていきます。自分が実力を発揮したい時に心の中でアファメーションを繰り返すことで「自分はできる」と感じるようになるのです。
ただし、アファメーションでは使用する言葉に注意が必要です。
ネガティブな表現やあまりにも現実離れしている言葉を使うと「やはりダメだ」や「そんなことできない」とマイナス方向に働いてしまいます。肯定的な表現になるように工夫しましょう。
真似をする
真似ることは自己効力感を高めるためにも有効な手段。成功している人を真似ることでその人のように自分も成功できる気分になるので自己効力感が高まっていくのです。
自己効力感を高めるためには自分と似ている部分があり、自分の理想の姿に近づけるような人を探しましょう。
社内の人でなくても小説の中の人物やテレビでみる有名人でも構いません。歴史上の人物であればその人の成功の実績とその成功までの険しい道のりをよく調べ、自分と重ね合わせていきましょう。
真似るはビジネススキルを向上させるにも有効な手段ですので、一石二鳥が期待できますね。
「真似る」は「学ぶ」の第一歩!人を真似するメリット・ポイント・注意点
アンカリングを活用する
アンカリングとは「条件付け」のこと。刺激と反応を意図的にリンクさせることによりどんな状況でもベストな状態を作り出すスキルです。
アスリートが大会前に行うルーティンや試合前に聞いている音楽などはアンカリングの代表的なもの。入場時にテーマ曲がBGMとして流れると自己効力感が高まり、自信に満ちた状態でパフォーマンスができるのです。
アンカリングは過去の成功体験を利用して身につけられます。やり方は簡単、3ステップで完了です。
思い出すのは成功した事実だけではありません。できるだけ細かく時間をかけて思い出していきましょう。その時見た景色や周囲の声、今目の前にその世界が再現されるよう想像を広げていくと成功体験で感じた胸の高鳴りまで思い出されるはず。
ポーズとは刺激になるもの。過去の成功体験を思い出して胸の高鳴りが続いている間、そのポーズを続けましょう。
・左手で右手首を掴む
・おへその辺りに右手をあてる
このように手や指を使った動作はさりげなくできるのでおすすめです。どんな動作でも構いませんが、アンカリングのトレーニングの前にどのポーズにするか決めておきましょう。
記憶を呼び起こしたことにより感情の高ぶりは長く続きません。感情が薄れてきたと感じたらポージングは終了。成功体験の時の感情のみに対する刺激にする必要があるのです。
以上の3ステップを繰り返すことで、アンカリングが少しずつ身についていきます。
過去の成功体験と同じような感情を呼び起こしたい時にポーズを作ることで呼び起こすことができるようになり、「自分はあの時のように成功できる」と自己効力感が高まるのです。
まとめ
あなたが普段している何気ない日常は全て自己効力感があるからこそできている行動。無意識に日常で使っている自己効力感をぜひ積極的に仕事にも活用していきましょう。
「もうこれ以上頑張れない」そう思った時に思い出してください。自己効力感のあるあなたにはできることがあります。