働き方の多様性が認められるようになってきた中で、労働を分け合う「ワークシェアリング」の言葉を耳にするようになりました。
しかし「言葉は聞いたことあるけど、実態がよくわからない。」という人も多いはず。
そこでこの記事では、ワークシェアリングの意味やメリット・デメリット、実際に導入した企業の事例を紹介していきます。
目次
ワークシェアリングとは
ワークシェアリングとは、労働を雇用者で分け合って、1人あたりの勤務時間を減らそうとする仕組み。
1人が抱える労働力を減らして、その浮いた労働をさらなる雇用でカバーするのです。仕事をシェアして、社会全体の雇用者数を増そうとする考えを基に始まりました。
ワークシェアリングは、大まかに分けて4種類あります。
緊急対応型
会社にダメージを与える緊急事態が起こったとき、従業員をリストラせずに労働時間を減らす方法。
中高年対応型
定年の延長や定年後に再雇用し、60歳以上の社員を雇用する方法。
雇用創出型
フルタイムではなく時短勤務で契約し、雇用者数を増やす方法。例えば1つの仕事に対して1人ではなく、2人で仕事を分け合うといったもの。
多様就業対応型
パートタイムやフレックス、在宅ワークなどを導入し、ライフスタイルに合わせた就業形態を導入する方法。
ワークシェアリングを導入すると1人あたりの勤務時間が短くなるので、近年問題となっている長時間労働の解消が期待できます。
また、労働の意思はあるけれど、子育てや体力、介護などさまざまな理由から長時間の拘束が難しい人も働きやすくなるでしょう。正社員やフルタイムといった働き方に限定せず、個人のライフスタイルに合わせて多様な就業形態を展開することで、女性や高齢者、失業者などの雇用する機会が広がります。
長時間勤務によるストレスから解放し、効率的に生産力を上げると同時に、雇用者数を増やして社会全体の安定化を目指す方法なのです。
日本でワークシェアリングが注目されている理由
ヨーロッパで失業者が急増したことにより注目されたワークシェアリング。海外から始まった政策であるのにも関わらず、日本で注目されているのはなぜなのでしょうか。
ここでは、日本でワークシェアリングが注目されている理由を見ていきます。
各世代のキャリア形成を図るため
グローバル化や目まぐるしく進化していく技術開発などによって、今後も働き方や求められるスキルが変化していくことが予想されます。さらに仕事と長く付き合っていくうえで、安定した雇用と充実した生活を送るためには、円滑なキャリアプランが不可欠です。
そこでワークシェアリングによってライフステージに合った労働形態が提供されると、幅広い世代が活躍できるチャンスが与えられ、有能な人材の確保を実現できます。
例えば、30〜40代は組織の中核を担う年代でありながら、長時間労働やストレスにさらされる場面も多く、自己形成のために使う時間の確保が難しくなっているのです。
また、この世代の活躍が目立つと若年層の実践的な能力を高める機会や、中高年が実力を発揮する機会を奪ってしまう可能性も考えられます。
そこでワーキングシェアリングを導入し、それぞれの世代に活躍の場と自分の時間を平等に与えることで、雇用者の心身共に安定した生活が実現可能になるのです。
心身の健康を守るため
心身の健康を守る仕組みとしてもワークシェアリングが注目されています。
近年、長時間労働の危険性が社会的に問題となっていて、過酷な労働は心身の病を併発する要因となりうると考えられているのです。
また、過剰な労働量とは反対に、失業率が高まってしまっても自殺やホームレスの増加などさまざまな社会問題を起こす原因にもなります。
1人1人が抱える労働力とそれに伴う拘束時間を減らし、労働者を増やすことで、経済社会の安定化だけでなく労働者の心身の健康を守れるのです。
人手不足の解消が期待できる
ワークシェアリングの導入によってもう1つ期待されているのが、企業の人手不足の解消です。
少子高齢化や非正規雇用の待遇の低さなどを理由に、現代の日本では人手不足が続いています。
そこでワークシェアリングを導入することで、正社員では働きにくい主婦や多様な働き方を望む若者、定年退職後の高齢者などを多様な雇用体系で雇い人手不足を解消できるのです。
ワークシェアリングの労働者側のメリット
『日本でワークシェアリングが注目されている理由』から労働を分け合うワークシェアリングには、現代の日本が抱えるさまざまな問題を解消するポテンシャルがあるとわかりました。
では、実際にワークシェアリングを進めた際のメリットを、労働者側と企業側に分けて紹介していきましょう。
ワークシェアリングが進むと労働者には、このようなメリットがあります。
・働き口が増える
・自分の時間を確保できる
・モチベーションアップ
それぞれ詳しく見ていきましょう。
働き口が増える
ワークシェアリングは1人あたりの勤務時間を減らしてその分の仕事を分け合うため、求人の数は多くなります。
ワークシェアリングはリストラして雇用者数を減らすのではなく、勤務時間を短縮する政策。なにかしら会社にダメージがあったとしても雇用は維持されるので、安心して働くことができるのです。
また、フルタイムや正社員に限らず、パートタイムでの勤務や副業、兼業など様々な労働形態が展開されると、多数の企業でスキルアップが目指せます。
自分の時間を確保できる
1人当たりの仕事の量を減らされ勤務時間が短くなるので、プライベートの時間を確保できます。
夜遅くまで仕事して、目が覚めたらすぐに仕事へ行くという長時間労働のルーティンから解放され、自己成長や家庭、趣味など自分のために時間を使えるのです。
今後のキャリアやライフプランを計画する時間もできるので、仕事とプライベートの両方でメリットがあります。
モチベーションアップに繋がる
ワークシェアリングを取り入れると、1人1人が無理のない勤務時間と仕事量で働けるようになります。
そのため心に余裕ができ「休日なはずなのに、仕事に追われてしっかりと休めない」「明日また仕事だ……と憂鬱な気分で休日を全力で楽しめない」などの気分になることが減るのです。
心から休日を楽しみ、適した量の業務をしっかりこなす。このようにオンオフをしっかりと分けて過ごせるので、「なんのために働いているんだろう」とモチベーションが下がることもありません。
ワークシェアリングは働く人のモチベーション維持にも効果があるのです。
ワークシェアリングの企業側のメリット
ワークシェアリングを進める企業側のメリットは、以下の3つが挙げられます。
・無駄なコストを削減して効率アップ
・採用や最適な人員配置がしやすい
・従業員満足度が上がる
それぞれ詳しく見ていきましょう。
無駄なコストを削減して効率アップ
ワークシェアリングによって仕事のある日と休みの日のメリハリをつけると、従業員のモチベーションが上がり、生産性が上がると考えられています。
また従業員のプライベートが充実すると創造性が養われ、新しい事業や業務のアイデアもより多く生まれるようになるでしょう。
また、ワークシェアリングによって残業や休日出勤などが減ることで、光熱費などコストの削減にもつながるのです。
採用や最適な人員配置がしやすい
出勤時間が自由だったり、時短勤務ができたりすると「その条件なら働ける」と幅広い世代が求人に応募しやすくなります。
応募者の母数が増え、その分採用もしやすくなるでしょう。
また、急な人員が発生した場合でも、ワークシェアリングを実施しておけば従業員は余裕を持って確保できているため、適切な人員配置ができます。
従業員満足度が上がる
時短での勤務や仕事量が減ると、従業員のストレスも減ることが予測されます。さらに雇用の維持は継続されるので、職を失う不安がなく勤務先に対する信頼度が上がるのです。
従業員から信頼されていると企業のイメージアップにつながり、採用が有利になったり、取引先との友好な関係を築きやすくなるでしょう。
ワークシェアリングの労働者側のデメリット
ワークシェアリングには、メリットがあると同時に立ちはだかる壁もあります。どのようなデメリットがあるのか、労働者側と企業側で見ていきましょう。
労働者にとって働く先が増えるメリットがありますが、以下のようなデメリットもあります。
・給与が減る可能性がある
・低賃金労働者が増加する恐れがある
・賃金が平等にならない
どのような点で不利なのか、見ていきましょう。
給与が減る可能性がある
給与は、基本的に労働した時間分の給与が支払われます。ワークシェアリングで勤務時間が減ると、時間に対しての基本給が減る可能性があるのです。
しかし、年齢やスキル、業界など条件によっては1時間あたりの基本給を上げることができるかもしれません。
また副業などで他の収入源を増やせば、給与面はカバーできるでしょう。
低賃金労働者が増加する恐れがある
景気の後退している対策として、現状正社員を減らして、パートタイムでの労働者を増やす企業が多くなっています。
賃金の格差を考えず、そのような対策をしているため、給与面において正社員とパートタイム労働者の格差はどんどん広がっているのです。
さらに現在のパートタイム労働者の格差を見直さないまま、ワークシェアリングをはじめとする労働形態の多様化を推し進めることは、低賃金労働者の増加するつながると考えられています。
賃金が平等にならない
時間短縮により時間に対しての対価が受け取れるのは、ワークシェアリング労働者のみです。
労働の機会を与えられる政策ではありますが、雇用形態によっては給与の計算方法が異なってしまうので、賃金の平等を実現するのは難しいのかもしれません。
ワークシェアリングの企業側のデメリット
様々な労働形態を提供し、勤務時間を減らすことで労働者の士気を上げられますが、以下のような懸念点も考えられます。
・生産性の低下
・制度を見直す必要がある
・給与計算に時間がかかる
それぞれ詳しく、見ていきましょう。
生産性の低下
メリットで生産性が向上すると上げましたが、必ずしも生産性が上がるとは限りません。
複数の労働者が仕事に関わってくるので、引き継ぎやコミュニケーションなどに時間がかかってしまい、1人だったらスムーズに進む工程が、かえって複雑になってしまう可能性があるのです。
しかし、これはあらかじめワークシェアリングで起こり得る懸念点を洗い出しておくと、マニュアルの作成や進捗管理など事前に対策することができます。
制度を見直す必要がある
単純に労働時間を減らしたり、採用を進めれば良いというわけではありません。企業はワークシェアリングに対応するため、各種制度を整備する必要があるのです。
場合によっては、これまで定められてきた制度を見直す必要もあるでしょう。
そこに労力がかかってしまい、一般的な業務が思い通りに進まなくなってしまうかもしれません。
給与計算に時間がかかる
多様な労働形態で雇用すると、人によって給与体系が異なります。ワークシェアリングを導入すると、計算方法が多岐に渡るうえに雇用者数が増えるので、給与計算に時間がかかると予想されるのです。
これまでの給与計算の時間よりも大幅に時間がかかる可能性があるということは、企業にとっても大きなコストになってしまうでしょう。
日本企業のワークシェアリングの導入事例
海外発祥のワークシェアリングですが、日本企業も導入が進んでいます。実際の例を紹介するので、ワークシェアリングに興味がある人は、ぜひ参考にしてみてください。
マツダ自動車
2009年にマツダ自動車は、新車販売の業績不振を背景に、雇用の維持を約束する代わりに勤務時間と給与のカットを行いました。
工場に勤務する約1万人従業員が対象で、従来の稼働時間が昼・夜の2部制のところ、夜間の稼働を中止。同じ人数で昼の稼働に絞って1人あたりの勤務時間を減らし、時間外勤務や休日出勤などの手当も大幅に削られました。
人材を手放さずに業績の回復を目指す取り組みは、企業と従業員の両方にメリットがあると言えるでしょう。
ベネッセ
教育・生活事業を展開するベネッセは、短時間正社員の雇用を行なっています。
ワーキングマザー同士が情報交換したり、相談に応じてくれる制度を設けていて、子育てしている女性でも働きやすいような仕組みが整えられているのです。
限られた部署だけでなく、さまざまな部署に時短労働者が配属されているそう。キャリアプランの実現も期待できますね。
ベネッセはこの制度を1997年に導入し、日本でワークシェアリングをいち早く取り入れた企業と言われています。
エス・アイ
データ入力の代行などを行うエス・アイは、ワークシェアリングを積極的に導入する会社です。
パートタイマーに限らず全社員時間給制で、決められた時間内であれば自由に出退勤できる自由出退勤制が設けられています。
複数の従業員で業務の共有するなど、ワークシェアリングに伴う社内の制度が整備されているので、これから取り入れようとしている企業にとっては、学べる部分が多いでしょう。
まとめ
会社員やフルタイムの雇用に限定されない多様な働き方が求められる現代。
ワークシェアリングをはじめ、従来の枠組みに捉われず、どのように働くのか自分で選択できる社会が近づいています。
この機会に、自分に合った働き方とはどのようなものなのか、考え直してみてはいかがでしょうか。