インポスター症候群とは、成功や名声を手に入れたのにも関わらず、それは過大評価であり、自分に能力や実力があるように周囲を欺いているだけであると感じてしまう心理現象のこと。
成果や仕事ぶりを上司や同僚に褒められても「たまたま運が良かっただけだ」と自分の成功を認められない、なんてことはありませんか?「自己PRして」と言われても話せることがないと、悩んでいる人もいるのではないでしょうか。
また、優秀な部下に仕事を振っても「私にはできません」と断られた経験のある上司の方も多いのではないでしょうか。
これらはすべてインポスター症候群の可能性がある特徴です。
今回は、そんなインポスター症候群について詳しく解説します。克服方法もあわせて紹介しているので、「自分の成功を素直に喜べなくて辛い」と悩んでいる人はぜひ参考にしてください。
目次
インポスター症候群とは
インポスター症候群とは、成功や名声を手に入れたのにも関わらず、自分の能力はそれほど高くないのに過大評価されている。周囲をだましていると感じる、心理状態のこと。
インポスター(imposter)とは詐欺師という意味で、自分に能力や実力があるように、周囲を欺いている、まるで詐欺師のように感じることから、インポスター症候群と呼ばれているのです。
「症候群」の言葉が使われていますが、インポスター症候群は精神的な疾患や障害ではないとされています。成功を掴んだ多くの人が感じる不安や緊張を指す言葉として心理学者の間でも一般的に使われているのです。
インポスター症候群は、女性が陥りやすいとされていますが、決して女性に限ったものではありません。男性も陥る心理的現象です。
このインポスター症候群は、1978年にアメリカの心理学者のポーリン・R・クランスとスザンヌ・A・アイムスが命名。
そして近年、フォーチュン誌が選ぶ「世界で最も有力な女性50人」の一人、米国フェイスブックのCOO、シェリル・サンドバーグ氏が、著書『LEAN-IN(リーン・イン) 女性、仕事、リーダーへの意欲』で、インポスター症候群に苦しんでいた自身の過去を明かしたことで、社会的に注目を集めました。
また女優のエマ・ワトソンやミシェル・オバマも、自らがインポスター症候群であることを告白し、話題となりましたよね。
特に日本では謙虚、謙遜が美徳とされる文化が根付いており、「成功しても謙遜してしまう」とインポスター症候群に陥る人が多いと今、注目されているのです。
インポスター症候群の特徴
具体的にインポスター症候群の特徴にはどのようなものがあるのでしょうか。インポスター症候群の特徴を紹介します。
自分がどのくらいあてはまるか、チェックしてみましょう。
必要以上に謙遜し、自分を卑下する言葉を使う
インポスター症候群の場合、どんなに成功しても「今回は運が良かっただけ」と自分の能力を信じることができません。
そのため、周りの人からどれだけ褒められたとしても「いやいや、周りの人のおかげで僕は何もしていません」「私なんて、その場にいただけです」と必要以上に謙遜します。
またそれだけでなく、普段から「私は何もできない人間なので」「僕は無能なので」と自分をけなす言葉をよく口に出すでしょう。
努力家である
インポスター症候群の人は完璧主義の傾向にあります。一度成功すると「次、失敗してしまったら、騙したように思われる」と次に失敗することを極端に恐れ、失敗を防ぐために必死に努力するのです。
また成功のハードルが高く、どれだけ成功しても「自分はまだまだだ」と満足せず、上を目指します。
これだけを見るととても優秀で良いことのようにも思えますが、本人は他人や自分からのプレッシャーを過度に感じてしまうようになり辛いのです。
あまり積極的にチャレンジしない
「前は調子が良かっただけで、次は失敗する」
「失敗すれば、周りから見放されてしまう」
このように自己肯定感が低く、失敗を恐れているため、前向きな挑戦ができません。
また、失敗しても自分のせいではなく準備不足や体調不良など、その他のせいにするためにやるべきことを怠る傾向もあります。
本気を出さない
「本当はもっとできるのに、手を抜いて100%の力を出さない」というのも、インポスター症候群の特徴です。
小学生や中学生のとき、本当は足が速いのに「リレーの選手になりたくないから」と全力を出さないクラスメイトがいませんでしたか?
筆者はその当時、そんな友人を見て「もったいない」と思ったものですが、今このインポスター症候群を知ったあとならその気持ちが理解できます。
「目立って失敗して周りをがっかりさせたくない」
「能力があると周りから妬まれるのではないか」
このように考え、実力のない振りや賢くないふりをするのです。
自己PRが苦手である
自分の成功を認められないため、上司との評価面談や転職活動の面接などでの自己PRが非常に苦手です。他の人からすればすごいことなのに「こんなこと実績にならない」「全然すごくない」と言いだせません。
また企業や上司から良い評価をもらえたとしても、その評価と自分の思う自分のギャップに「なぜこんな評価を貰えたのだろう」と苦しみます。
本音を話せない
インポスター症候群の場合、「自分の成功は認められないけれど、周りからの期待も裏切りたくない」そんな思いから、周囲から求められる言動をするようになります。
相手の期待とは異なる面を見せれば、がっかりされ評価が下がると思っているため、本心を見せることができません。
本当はもう無理だと思っている業務でも、上司に状況を聞かれれば「大丈夫です!頑張ります」と答えてしまうのです。
インポスター症候群の原因
なぜインポスター症候群に陥ってしまうのでしょうか?インポスター症候群の原因を紹介します。
過去の経験
過去に自分の活躍・成功が周りの人たちに妬まれ、いじめられたり、からかわれたりした経験はインポスター症候群の原因となります。
「活躍すると悪目立ちしてしまう」と思うようになり、成功を素直に喜べなくなるのです。
筆者も小学生の時英語の授業で、幼い頃から英語を習っていたので自信満々に英語の発音をしたら、クラスメイトにからかわれ、そこから自信を持って英語を話せなくなってしまった経験があります。
幼い頃の経験は、意外なほど自分の人生に影響をもたらすのです。
文化的背景
・褒められても謙遜することが美しいとされている
・幼い頃から、目立つことなく周りの子と同じように”普通”にすることが良しとされてきた
・自分の成功より、チームの成功を考えろと言われている
・学校や会社では、過程よりも評価で全て判断される
・女性は目立つことなく、おしとやかに生きていくべきだと言われてきた
このような社会に根付いた文化も、インポスター症候群の原因です。その文化によって、無意識のうちに価値観が形成され、それに合わせた行動や心理になってしまうのでしょう。
成功することで増す辛さへの抵抗感
成功すれば成功するほど、役職がつき、業務量が増加し、責任も大きくなる。その成功で増す辛さへの抵抗からインポスター症候群に陥ることもあります。
インポスター症候群が特に女性に多いと言われているのは、この原因が大きいかもしれません。
「成功して役職につけるのは嬉しいけれど、子育てもあるから柔軟な働き方ができなくなるのは辛い」
「これまで女性管理職がいないのに、私が初めてなって失敗したらどうしよう」
このように考え、成功による重圧に耐えられなくなってしまうのです。
自己肯定感の低さ
「自分なんかがこんなことできるはずない」と自己肯定感の低さもインポスター症候群の原因に。
自分の存在をあまり肯定的に捉えられていないなら、能力や成功も素直に認めることはできませんよね。
自己肯定感が低いけれど、成功は繰り返す。まさに鬼滅の刃の我妻善逸のようです。
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インポスター症候群の克服方法
インポスター症候群は、毎日の小さな積み重ねで克服できるもの。インポスター症候群の克服方法を紹介します。
自分がインポスター症候群であると受け入れる
まず大切なのが、自分がインポスター症候群であると受け入れること。受け入れらなければ、対処していくことはできません。
また受け入れることで「私自身はこの成功を今受け入れられないけれど、みんな褒めてくれるからすごいことができたんだな」と少しずつ成功も認められるようになっていきます。
「インポスター症候群の特徴」で紹介した特徴に当てはまるものが多いのなら「インポスター症候群かもしれない」と自分の日々の行動を客観的に見るようにしていきましょう。
過度に意識する必要はありませんが、そうすることで「こう思ってしまうことはしょうがないことなんだ」と気持ちが楽になるかもしれません。
褒め言葉を素直に受け取る
インポスター症候群に人は、成功した時周りの人から褒められても「いやいや、偶然です」と謙遜しがち。
まずは最初にひと言「ありがとうございます」と褒め言葉を受け入れることから始めてみましょう。
そうすることで不思議と、褒め言葉が自分の中にすっと入ってきて素直に「嬉しい」と感じられるようになります。
相手も褒め言葉を「私なんか・・」と言われるより、素直に受け取ってもらえた方が気持ちが良いはずです。まずは「ありがとうございます」から始めてみましょう。
自分の成功体験を書き留めておく
日々の自分の成功体験を書き留めておきましょう。「自分はこんなことができるんだ」と可視化されるので、それを定期的に読み返せば自信に繋がります。できる自分を自分自身に見せてあげるのです。
成功体験はどんなに些細なこと、当たり前なことでもOK。毎日こなしている習慣でも構いません。
・朝、目覚ましよりも早く起きれた
・上司に資料のデザインを褒められた
・同期の相談にのってあげられた
このような成功体験を、ノートやスマホのメモアプリに書き溜めておきましょう。
また、小さな成功体験を生むために、毎日1つ筋トレを覚えるなど日々小さな新しいことに挑戦するのもおすすめです。
日々感謝されたことを書き留めておく
成功経験同様、毎日周りの人から感謝されたことを書き留めておくこともおすすめ。
感謝されたことを可視化することで「自分は役に立っているんだ」と存在意義を再確認できます。
SNSから離れる
SNSは楽しいものではありますが、他人と自分を比較し「やっぱり私よりも他の人がすごい」と考えてしまう原因にもなり得ます。
心が疲れているなと感じたら、SNSの通知をオフにしたり、アプリを消したりして見ましょう。程良い距離を保つことが大切です。
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自分より優秀な人の中に身を置く
自分への過度な期待や責任が、インポスター症候群の原因となっている可能性があります。過度な期待や責任から逃れるために、自分より優秀な人の中に身を置くのもインポスター症候群の対処法としてはおすすめ。
「周りが優秀だ」と分かっているので、強がることなくリラックスして質問できたり、アドバイスやサポートを貰えたりするのです。
失敗しても、周りに優秀な人がいるため、助けてくれますし「この人たちの中なら、自分はしょうがない」と肯定することもできるでしょう。心理的負担が軽減されるのです。
ぜひ社内で自分が尊敬できる人とランチなどでよりコミュニケーションをとるようにしたり、オンラインサロンに入ってみたりして、優秀な人に囲まれる環境を作ってみてください。
自分を卑下する言葉を使わない
「自分なんて・・・」「ただそれは~だっただけ」などと自分を卑下するような言葉を使わないように意識しましょう。
自分に対してネガティブな言葉ばかりかけていたら、どんどん自信を失いさらに成功を認められなくなっていきます。
言葉を変えるだけで、自然と気持ちや行動も変わっていくもの。まず意識的に変えやすい言葉から前向きに変えていきましょう。
まとめ
1人1人の個性が認められる社会となってきましたが、その一方で「何者かにならなければならない」という意識も生まれ、周りと比較し「自分なんか・・・」と感じてしまう場面も増えたように感じます。
しかし、他人と比較する必要はありません。悩みの大きさが人によって比べられないのと同じく、成功の大きさも比べることはできないのです。
あなたが「自分すごい」と思えたら、それは誰が何と言おうとすごいこと。
「自分はこれで良いのだ」と自分の成功に胸をはって歩けるようになるために、ぜひ克服方法を1つずつ試してみてください。