「自分の気持ちをうまく伝えられない」
「気を遣って話したつもりなのに誤解されてしまう」
「アサーティブ」はそんなコミュニケーションの悩みを抱えている人におすすめのスキルです。
今回は、その「アサーティブ」「アサーティブコミュニケーション」について詳しく解説していきます。
身につける方法も紹介しているので「聞いたことはあっても何だか難しそう」と尻込みしていた人もぜひこの記事を参考に、アサーティブコミュニケーションを試してみてください。
目次
アサーティブとは
アサーティブについて、相談員としての職務経験があり、メンタルケアの知識もある筆者が簡単に解説します。
アサーティブとは
アサーティブは「自他共に尊重した自己主張ができる状態」を指す言葉。アサーティブになると自分の意見を述べる時に相手の気持ちも尊重しながら伝えることができます。
似たような言葉に次のようなものがあります。
「アサーティブネス」:アサーティブであること
「アサーション」:自分の主張
またアサーティブなコミュニケーションを「アサーティブコミュニケーション」と呼び、ビジネスで役立つスキルの1つとして注目されています。
身につけることで取引先や上司、同僚など仕事上関わる誰とでも円滑なコミュニケーションが期待できるスキルなのです。
アサーティブの歴史
そもそも、アサーティブコミュニケーションは1949年、人間関係やコミュニケーションが苦手な人向けのカウンセリング法として開発されたもの。
そして、1960年代から自分の表現力を高める行動療法の一技法として広まっていきます。さらに1970年代アメリカで人種やジェンダーの差別是正を求める活動において「いかに自己主張をするか」を探られる中で発達していきました。
日本では認知行動療法の1つとしてアサーティブコミュニケーションを身につける「アサーティブトレーニング」が行われてきました。
近年アサーティブトレーニングは人材開発においても注目され、オンラインでのやり取りが当たり前になってきた今、非対面でも良好な人間関係を築くためのコミュニケーションスキルとしてさらに重視されるようになっています。
「アサーティブ」の大切な4つの要素
アサーティブでいるために大切な要素が4つあります。それぞれについて説明します。
誠実
コミュニケーションにおける誠実とは、自分にも相手にも嘘をつかないことを指します。相手を尊重するあまり自分の意見を隠してしまうのはアサーティブではありません。
誠実でいるためには、まず自分自身に正直な姿勢が大切。自分に誠実な人に対しては相手も誠実に接してくれるのです。
対等
仕事上の役職などの違いがあっても対等な立場でのコミュニケーションを取れる状態がアサーティブ。
「対等」とはお互いの意見を自由に言える関係のこと。立場を利用して自分の意見を押し付けては対等とは言えません。
立場の違いから自分の主張を曲げたり我慢したりすると、アサーティブではなくなってしまいます。
率直
アサーティブでいるためには率直も大切。ストレートに相手に伝わる言葉を選ぶように心がけましょう。
遠回しな表現では主張が伝わりにくくなり、相手にも自分にもストレスがかかってしまいます。
しかし、ストレートに伝えればよいと感情に任せた発言はNG。感情的な言葉は意見が分かりにくくなるだけでなく、相手も冷静に聞くことが難しくなるためアサーティブとは言えないのです。
自己責任
自分の言葉に自分で責任を持つこともアサーティブでは大切なこと。
「上司がこう言ってたから」「みんなそうしている」と責任を他人任せにしてはいけません。発言が信用されなくなり、自分自身もどれが本当の自分の意見だか次第に分からなくなってしまいます。
例え自分の意見が相手に受け入れられないのが怖くても、その発言に責任を持ち、結果を受け入れるようにしましょう。
「アサーティブ」でないコミュニケーションのタイプ
アサーティブなコミュニケーションをよく知るために、「アサーティブでない」コミュニケーションを深堀りしてみましょう。
アサーティブではないコミュニケーションは3つのタイプに分かれると言われています。どのコミュニケーションが良いという事ではありません。性質が異なるタイプがあるということです。
ポイントは「尊重している割合」。自分と相手の意見、どちらにどのくらい重きを置いているように見えるかで区別しています。
その人のコミュニケーションタイプがどれか1つだけということはまずありません。私たちは状況によって自然とどれかのタイプになったり、意図的に選んだりしています。
攻撃的タイプ(自分の意見>相手の意見 に見える)
・意見を言われるとまず「違う」など否定する
・意見がうまく伝わらないと声を荒げる
・不機嫌そうな表情や忙しそうなオーラを出す
このように自分の意見を主張するだけで相手の気持ちを尊重しないように見えるタイプです。
自分の意見を堂々と述べるので自己中心的に思われますが、実はそれは自分の弱点を隠そうとしている行動。他人から自分の欠点を指摘されるのが怖いので、指摘されにくいような雰囲気を作り出しているのです。
自分を守ることに全力投球しているため他人の意見を尊重する余裕はありません。
受診的タイプ(自分の意見<相手の意見 に見える)
・残業を断れない
・表現があいまいでYesNoをはっきり言えない
・会議で発言をあまりしない
自己主張はしない、おとなしいイメージのタイプ。実は自分にも意見があるけれど、相手の意見を優先させて主張しません。
期待外れの結果になってしまうと相手の主張に対しても不満を持ち、主張しなかった自分にも不満を感じ、ストレスが大きくなります。
「相手の意見に沿った自分を認めて欲しい」という他人承認欲求が強いのもこのタイプの特徴です。
作為的タイプ(実は 自分の意見>相手の意見)
このタイプは自分の意見を主張せず、他人の意見を優先させることもありません。一見、中立的に思えますが、実は攻撃的タイプ同様、自分の意見を優先させています。
攻撃的タイプと異なる点は、直接言葉で主張することがないこと。自分の意見を相手に察してもらうことで伝えようとします。
例えば早く会議を終わらせたいと思っている時、何度も時計を見るなどの動作で相手にアピール。
直接主張しないため、伝わらないことや誤解されることもありストレスを感じることも多いでしょう。
「アサーティブ」を身につけるメリット
アサーティブを身につけるとどんなメリットがあるか、見ていきましょう。
コミュニケーション能力が向上する
ビジネスでもプライベートでも、コミュニケーションの重要性は誰もが感じているのではないでしょうか。
良好な人間関係を築くには信頼が大切。アサーティブな態度で自分も相手も尊重することで、相手との信頼関係が築きやすくなり、コミュニケーションが円滑に進められるようになります。
アサーティブを身につけるとコミュニケーション能力が向上し、取引先や上司とも十分な意思疎通が図れるでしょう。
活発な意見交換ができる
アサーティブは役職に関係なく対等な立場で意見を述べる態度です。
上司も部下もどちらもアサーティブな状態であれば、上司も威圧的な態度にならず、部下も自由に意見を述べることができます。上司が部下の立場を思いやった指示を出してくれれば、働きやすくなり作業効率はアップするでしょう。
何かトラブルがあっても、さまざまな立場から自由に意見を出し合えるようになり、より良い対策を思いつくようになるはずです。
ストレスを軽減できる
他人を気遣うあまり自分の意見や本音を伝えられないと、知らずのうちにストレスは溜まっていくもの。
アサーティブを身に付ければ自分の意見を素直に伝えられるようになるためストレスは軽減するでしょう。ありのままの自分を受け入れることで自己肯定感は高まり、相手の意見を素直に聞くこともできるようになります。
自分にも相手にも誠実にいられることはストレスフリーなのです。
「アサーティブ」を身につける方法
「アサーティブ」を身につける方法を紹介します。本来、認知行動療法で行われている「アサーティブトレーニング」ですがビジネスにも応用できるものがあるのです。
ここではその中でも毎日の生活の中に簡単に取り入れられる方法を紹介します。
自分を知る
コミュニケーションでは使う言葉や言語外の動作が大きな影響力を持ちます。相手の言葉の使い方や話すときの癖はよく気づくものですが、同じように自分の話す癖も分かっていますか?
相手に誤解されない率直な伝え方がアサーティブには必要です。
どんなに柔らかい表現をしても、声のトーンが威圧的では相手は身構えてしまいますね。自分は率直に話している「つもり」になっていないか、まず自分を知ることが必要なのです。
・「えーっと」など間合いが長い
・前置きが長く本題がわかりにくい
・早口である
・語尾がきつい
・手がいつも動いている
スマホの録音機能などを使って、自分の会話を時々録音して客観的に聞いてみましょう。自分の主張が率直に伝わる話し方になっているかを確認することができます。
「I message」を心がける
自己責任で意見を述べるために「I message」を心がけましょう。
「I message」は主語を自分にして話をすること。「上司からそう言われたので」ではなく「私は~と思います」と話すと相手に責任の所在がわかりやすくなります。
「I message」にする以上、責任は自分が取らなければならないという自覚も生まれるので、仕事も責任を持って丁寧にするようになるでしょう。
曖昧な表現をさける
相手に誠実であるために具体的な言葉を使うようにしましょう。
例えば上司から進捗状況を確認されたとき、どちらの方が誠実さを感じるでしょうか。
「ちゃんとやっています」
「6割程度まで進めています。明日には一度確認していただこうと考えています」
後者の方が誠実な姿勢が伝わりますよね。
「ちゃんと」「しっかり」「頑張っている」などの曖昧な表現は使いやすい言葉ですが、誠実さに欠けるのでアサーティブではなくなってしまうのです。期日や割合などの数字を用いて具体的に述べるようにしましょう。
相手の話を傾聴する
「傾聴」は「相手の話をよく聞くこと」。自分と全く異なった意見でもまずは真剣に聞くようにしましょう。
相手の表情を見て相づちを打ちながら聞くことで相手を尊重していることが伝わります。傾聴してくれた人の話ならこちらも傾聴しなければと思ってもらえるはず。
傾聴しあい、お互いの意見を思う存分述べることで、有意義な話し合いになるでしょう。
DESC法で伝える
「DESC法」とは、自分の意見を上手く伝える技法の1つ。4つのプロセスの頭文字をとってDESC法と呼ばれています。
描写する(Describe):事実を客観的に描写する
↓
説明する(Explain;Express):事実に対する主観的な気持ちを説明する
↓
提案する(Specify;Suggest):解決策を提案、依頼する
↓
選択する(Choose;Consequence):提案に対する代替案を提示、もしくは結論を出す
この技法のメリットは、相手に伝わりやすいこと。考えを整理して、相手を攻撃することなく、自分の意見を主張できます。
例えば、上司から仕事を頼まれたときに「今忙しいので無理です。」と即答してしまうとアサーティブでないコミュニケーションとなってしまいます。上司の機嫌を損ね、今後の仕事に影響が出てしまうかもしれません。
アサーティブを心がけると次のように答えられ、依頼を断られた上司も納得の返事となるのです。
D:「今やっている仕事の締め切りが本日中なのです。」
E:「今日は時間をとるのは難しいです。」
S:「明日の午前中で良ければできます。」
C:「〇〇さんならこの内容に詳しいかもしれません。」(どうしても今日中と言われたら)
これは場面や伝えたい内容を設定してロールプレイで繰り返し練習することにより、次第に自然とこの流れで話ができるようになっていきます。
この技法の練習はセミナーなどでも多く行われているもの。
通勤の時間や食後のコーヒーブレイクなどのスキマ時間を使って、自分でも練習することはできますが、効率よく身につけたい人はセミナーに参加することをおすすめします。