業務を効率良くすすめるためのスキルの1つ、メタ認知。「聞いたことあるけど、なんか難しそう」そんな印象を抱いている人も多いのではないでしょうか。
実は「メタ認知」は誰もがすでに経験したことがあるスキルなのです。
この記事では、相談員としての職務経験がありメンタルケアの知識もある筆者がメタ認知についてわかりやすく解説しています。
「なんだ!それがメタ認知だったのか」今まで何気なく使っていたスキルを明日からもっと活用していきましょう。
目次
メタ認知とは
問題を解決する力や戦略を策定する力などを引き上げる手段として注目されている、メタ認知。一体どういうものなのでしょうか。
「メタ認知」とは
「メタ認知」とは簡単に言えば、もう一人の自分が自分の姿を認識すること。
例えば、休憩時間にコーヒーを一口飲んで「あぁ、美味しい」と思うとき。美味しいと思うと同時に「疲れているからこんなにコーヒーが美味しく感じるのかなぁ」と思うことはありませんか。
この『疲れているから美味しく感じるのかもしれない』と思うことがメタ認知。
自分の言動について客観的に判断したり、感じたりすることです。
言葉の意味
メタ=「高次の」のこと
認知=「考える、感じる、記憶する、判断するなどの行動」のこと
自分の感情は1次的認知。
それをさらに認知することが「高次の認知」すなわち「メタ認知」ということなのです。
メタ認知の歴史
「メタ認知」はアメリカの心理学者ジョン・H・フラベルが定義した心理用語。その後A・L・ブラウンによって研究が進み、広まっていった概念です。
元々は教育学や脳科学の分野で使われていましたが、最近ではビジネスシーンでも注目されるようになりました。
日常の場面でのメタ認知
実は「メタ認知」は日頃から行っている人がほとんど。
例えば・・・
・寝坊してしまった→「遅くまで動画見ちゃったからかな。やっぱり寝る前に画面見ているのは良くないのかな」
・上司の指示を忘れてしまった→「メモしなかったのがいけなかった。次からはメモを忘れないようにしよう」
失敗したとき、頭の中ではその原因や次の対策を考えていますよね。その考えこそが「メタ認知」です。決して難しいものではありません。
今まで意識していなかった「メタ認知」ですが、意識的に鍛えることによってビジネスシーンで効果を発揮するスキルに変えることができるのです。
メタ認知の過程
「メタ認知」をさらに深堀してみましょう。
メタ認知は「メタ認知的知識」→「メタ認知的技能」という過程を経て行われると考えられています。(心理学的にはさらに細分化されて研究がなされていますが、ここではビジネスに有効なスキルとして紹介しますので、大まかな内容にとどめています。)
メタ認知的知識
メタ認知的知識とは「自分はこれを知っている」と認知することです。
例えば・・・
・「今日のスケジュールはこうだった」と思い出す
・「議事録をまとめるのは苦手だ」と自分で思う
・「こういう資料はもっと図説を入れる方がわかりやすい」と思う
メタ認知的知識とは、自分の得手不得手が分かっている、経験からその方法が良いと知っているなどの知識があることを指します。
メタ認知的技能
メタ認知的知識により発生した課題に対して解決策を考えることがメタ認知的技能と呼ばれるものです。
・「今日のスケジュールはこうだった」→「先に使う資料を揃えておこう」
・「議事録をまとめるのは苦手だ」→「いつもきれいにまとめる先輩にコツを聞いてみよう」
・「こういう資料はもっと図説を入れる方がわかりやすい」→「提案してみよう」
このように自分の現状を客観的に認知できるからこそ、どうすればよいかを考えるようになります。メタ認知能力が高いと効率的に業務を勧められ、大きな成果につながりやすくなるのです。
メタ認知能力が高い人の特徴
メタ認知のメリットを知るためにメタ認知能力の高い人の特徴を見ていきましょう。
自己受容ができる
自己受容とは「ありのままの自分」を認めること。これはメタ認知そのものとも言えます。
誰でも自分の嫌なところには目を向けたくないもの。目を向けてしまうことで自分はダメだと否定的になってしまうからです。
しかしメタ認知能力の高い人は自分の欠点も客観的にとらえることができるため、自分を否定することなく自己受容できます。
メタ認知能力が高いと自信に満ちているように見えるのは、自己受容ができているからなのです。
Let It Go!ありのままの自分を受け入れて!自己受容の意味と方法
コミュニケーションを上手にとれる
メタ認知能力の高い人は、相手の様子と同じように自分の様子も客観的にとらえることができるためコミュニケーションも上手です。
相手のリアクションから上手く自分の話が伝わっていなかったと感じると、自分の表情や声のトーンを変えて誤解なく言いたいことを伝えられるように工夫します。
これは自分の話す様子を客観的に認知できている証拠。メタ認知は円滑なコミュニケーションにとても有効なのです。
リスク回避能力に長けている
メタ認知能力の高い人は自分の得手不得手を熟知しているので、それを踏まえて業務計画を立てることができます。
数字に弱い自分には難しいと思える仕事が回ってくれば、タスク管理に調べる時間や協力を依頼する内容を含めて、業務に支障をきたさないようにするでしょう。
ミスした時もその結果から学ぶことができるため、次回は意識して同じミスを回避することができます。
アクシデントに冷静に対処できる
仕事をしていれば予期せぬできごとは起こるもの。そこで焦ってミスしてしまうこと、多いですよね。
メタ認知能力の高い人は焦ったとしても「焦っている自分」を冷静に受け止めることができるため、すぐに落ち着きを取り戻し対処することができるのです。
メタ認知能力の高い人が何事にも動じないように見えるのは、焦ったらダメだと思っていないからなのでしょう。
メタ認知能力のトレーニング方法
メタ認知能力はトレーニングで鍛えられます。ビジネスで有効なスキルなので、ぜひとも鍛えたいですよね。
ここでは、忙しい毎日の中に無理なく取り入れられるトレーニングを紹介します。メタ認知能力を高めるトレーニングとして代表的なものに「セルフモニタリング」と「コントロール」があります。
中でも「セルフモニタリング」がメタ認知能力を高めるには重要です。
セルフモニタリング
セルフモニタリングは「自分自身をモニタリングすること」。自分をモニターを通して観察するように想像することです。
モニタリングの力を高める方法として「実況」「フリーライティング」「瞑想」を紹介します。
・「実況」
「実況」は自分の行動をモニタリングするのに有効な方法。
「靴箱からお気に入りの靴を出した」「お茶をこぼした」など、自分のしたことをもう一度頭の中で言葉で繰り返す方法です。
集中力が低下してぼーっとしている時は実況はできないもの。ふと「あれ?今何してたっけ」と思うときは要注意です。
・「フリーライティング」
「フリーライティング」は自分が抱えている悩みや不安、気になっていることも含め、頭の中にある思考をすべて紙に書き出すこと。
「何、書こうか」と考えるのはNG。頭に浮かんだことを片っ端からノートに書き出していきましょう。文章になっていなくても構いません。
「イライラ」
「なんであんなこと、言うんだろ」
など、思いついたままの言葉を書きましょう。
フリーライティングで書き出したものを振り返り、自分の思考を客観視できるようになることが一番の効果ですが、その他にも「ひたすら書く」という行為自体が精神を安定させる効果があります。
・「瞑想」
「瞑想」は心を落ち着かせる効果があります。ショックを受けたり、イライラしていたり心が激しく動いている状態では自分をモニタリングするのは難しいはず。
冷静にモニタリングするために、まずは瞑想で落ち着きましょう。瞑想は1分あればできます。自分の呼吸を強く意識しながら鼻からゆっくり息を吸って深呼吸。
仕事が休みの日にはリラックスできる場所で時間をかけてゆっくり瞑想するとよいでしょう。何度も瞑想をしていると「自分に集中」が意識しやすくなるので、落ち着くまでの時間が短くなっていきます。
コントロール
コントロールは課題や欠点の改善策を考えて気持ちを前向きに持っていくことを指します。ここでは自分で対応策を考えることがポイント。
有効な対応策を考えつくようにするトレーニングが「Why型思考」と「アナロジー思考」です。
・「Why型思考」
「Why型思考」は「なぜ?」を繰り返すことにより問題を深堀りしていく考え方。自分自身に繰り返し「なぜ?」と問うことで、問題の本質に気づき自分の中から解決策を引き出すことができるのです。
・「アナロジー思考」
「アナロジー思考」はある考えを他の分野に応用する考え方。全く違うものから共通点を見い出し、目の前の課題に生かす方法を考えます。
例えば学生時代に仲間と協力し合ってイベントを成功させた経験のある人は仕事でも協力しあって成果を上げられると考えますよね。これが「アナロジー思考」です。
セルフモニタリングに比べるとコントロールのトレーニングは自分1人では難しいこともあるでしょう。そういう時にはコーチングを利用するという方法もあります。
とくにWhy思考についてはコーチングを受けると考え方が効率よく身につくかもしれません。
コーチングで目標達成を実現しよう!コーチングについて詳しく解説【ティーチングとの違いも】
メタ認知能力を高めるときの注意点
残念ながらメタ認知能力が高いことはメリットばかりとは言えません。次のような状態になってしまったら「瞑想」でメタ認知のスイッチをオフにすることをおすすめします。
脳が疲れてしまう
メタ認知をすると普段の倍以上のことを考えていることになります。
「コーヒーが美味しい」だけで終わらず「疲れているからかな」「昨日何したかな」「無理しちゃう性格なんだ」など、次から次へと自分の考えに新たな考えを加えてしまうので頭の中はいつもフル回転。
肉体労働をすれば身体が疲れるように、脳も疲労します。疲労がたまれば働きが悪くなり、冷静な判断が難しくなるでしょう。場合によっては自律神経を乱し、体調不良を引き起こすかもしれません。
相談できない
メタ認知能力が高いと自分で分析し方法を考えることが身についているため、周囲に相談しようという意識が低下します。
仕事で分からないことがあったときに、自分で解決策を模索することが最善策と考えてしまうと相談という手段は選びません。
自分はメタ認知できるという自信があるからこそ、他人に相談せず自分で解決しようとするのでしょう。
しかし仕事は1人でするものではありません。複数の人が関わる仕事をするのですから、周囲に相談しながら進める姿勢は持つべきでしょう。
感情移入できないこともある
メタ認知をし過ぎると映画やドラマなどのエンターテインメントを素直に鑑賞できないこともあります。感動的な場面があっても、場の構成やBGMなどを客観視してしまって感情移入が難しくなってしまうのです。
時にはメタ認知のスイッチをオフにして心のままに作品にのめり込むのも良いでしょう。