新卒社員が入社し、「退職したい」と言ってくる新人社員に頭を悩ませている人事の方や現場の管理職の方は多いと思います。
そこで今回は、人材会社で人事コンサルタントを4年勤めた後、現在のWebメディア企業で8年人事を勤めている方に、「新入社員との関わり方のポイント3つ」をお聞きしました。
ポイントは、「押しつけ教育をしない」「短所も隠れた才能である」「人事こそ会社オタクであれ」の3つ。各ポイントの重視すべき理由・対処法・体験談を順番に解説していきます。
目次
押し付け教育をしない
新入社員には押しつけの教育をしないことが大切です。
新卒・中途社員に関わらず会社によって文化形成やルールが異なり、それらを理解し受け入れるスピードは人それぞれ。
それにも関わらず「うちはこうだから」「社会ってこういうものだから」「周りの人はこうやっているから」と説明をせずに押し付けてしまう人事の方は実は非常に多いのです。
なぜ押し付け教育はいけないのか
新入社員の質問に対し「うちではこうだから」と押し付けてしまうと、疑問が解消されず不信感につながり、最終的には退職を決断する社員が増えていってしまいます。
ミスが多い人に限って上司からは「こんなことも出来ないのか」と見られてしまうことが多い。
しかし元をたどれば「業務内容の理解不足」に起因することが多く、その責任は新入社員がわかるように説明していない上司に降りかかってきます。
対処法
新入社員に接する際に気を付けているのが「物事の流れを意味を持って説明をする」こと。
出来る出来ないの能力差ではなく、「何故この業務をする必要性があるのか」を現場・人事の双方の視点で説明を行い、その理解度を確かめるスキームも必要です。人事としては理解が遅い人やうまくいっていない人の情報収集を行い、問題に人事視点で介入することが大切です。
特に新卒教育の場合、人事や現場では「社会人として」を使いがち。しかし、新卒社員は「社会」の枠組みをこれから知っていくフェーズにあります。
その話の進め方自体が実は不適当であるということに人事は気づいていません。このギャップこそが実は「押し付け」につながっていってしまいます。
具体例
新卒1年目の営業部の社員とご飯を食べる機会がありました。
話をしていると「仕事の進め方においてミスが多く、上司からよく怒られていて精神的に参っている」とのこと。何ができていないかを聞いていくと「業務一つ一つの意味合いが理解できていない」ことがわかりました。
その社員は任された仕事に対して「こちらの方が効率が良いのでは」と上司に提案すると、「うちではこういう進め方だから」と言われたそう。
私なりにその提案自体は素晴らしいものの、「営業部の上層部ではどんな会議がされているのか」「その提案を行うことで他の社員にはどんなデメリットがあるのか」をかみ砕いて説明をしていきました。
すると元々真面目な気質だったこともあり、「仕事の進め方」「提案のタイミング」「提案の仕方」などにも問題があったことまで自覚してくれたのです。他のさまざまな疑問にも回答すると、翌日からは前向きに業務に取り組んでいました。
上司が「うちではこういう進め方だから」と答えたのもたまたまその時が本当に忙しく、手間をかけて説明するだけの時間がなかっただけかもしれません。また、元々説明があってもその人がその時点では理解が追い付いていなかったことも考えられます。
しかし、意味を詳しく説明し、新入社員に理解してもらうことが大切です。
短所も隠された才能である
2017年に弊社は某外資系企業が主催する「働き甲斐のある会社ランキング」TOP5に見事ランクイン。大きな改革の一つには「何でも良いようにとらえてみる」がありました。
私は人事の仕事は「自社で採用した人が一番やりたいことを叶えられる、または輝ける現場をつくること」だと考え、「社員が一番働きやすい会社」を目指してきた成果でもあります。
なぜ短所は隠れた才能であるのか
人は長所より短所に目がいってしまいがち。しかし「組織がその人を活かしきれていない」という捉え方をしてみましょう。短所は扱い方によって長所に変わっていきます。短所ばかりを見ていると固定観念となってしまい、いつしか「この人はダメだ」という見方をされてしまう社会人は多いのです。
新入社員の場合、面接である程度は性格・スキルは見えますが、その時間でその人の全ては見えません。大事なのは長所・短所を分けずに、理解する姿勢を人事や上司だけでなく、社員全体がもっているかどうかだと思ってます。
対処法
自社では評価をする際、現場・人事が両面で面談を行っています。その人のキャラクターや希望を聞き、何が一番最適なのかをみんなで考えるためです。
成功事例ばかりではないのも事実ですが、それがきっかけで「30歳を超えてキャリアチェンジし、急に成果を出した」ケースも。自社では人事面談が楽しみだという人も出てくるくらいです。
大事なのは、長所・短所の使い方。常識や一定のルールを守れないのは論外ですが、短所は「ダメな点」ではありません。「使い方次第では長所になる」との認識を持って接することで、自身が気づいていない隠れた才能を一緒に開拓してく一つのチャンスになりうるのです。
具体例
「質問だらけで話も長く、営業に向いていない」と評価されている営業部の新入社員がいました。その新入社員と話をすると、確かに話が長い。しかし、人に不快感を与えるものではなく、一つの事象に対して具体性をもって細かく説明をする方との印象を持ちました。
この短所の特徴から、立ち上げ予定の研修部門にこの社員を勧めたところ、快諾。「話の本質をブラさない」ことを意識して一緒にロープレを重ねていき訓練をすると、私の読み通り次の年から研修の評価が非常に高かったのです。
現場からも「研修を終えた社員がちゃんと理解した上で入っていてくれるので、現場で教える手間が省きやすい」とフィードバックをもらいました。今では研修部門の部門長を務めている彼は未だに「あの異動が自分にとって天職を見つけたタイミングでした」と言ってくれます。
人事こそ会社オタクであれ
新入社員に一番最初に接するのが「人事」であり、「相談しやすい環境づくり」に繋げるのが会社オタクであれというメッセージにつながります。
「相談しやすい人」になるには、第三者目線と業務の理解が大事なのです。業務を理解するために、会社オタクになりましょう。
なぜ人事は会社オタクであるべきか
経験上、真面目な人ほど同じ部署の人・同期ではなく、人事のようなフラットに意見を言える第三者視点を求める傾向にあり、相談する人の前提としてある程度「業務の理解」が求められます。
しかし実は組織が大きくなればなるほど「どの事業部が具体的に何をしているのかわからない」人事が多く、「人事に相談してもどうせわからない」という現場の溝ができてしまうのです。
それでは急な退職にも繋がりかねません。相談ができず退職を決断した状態で相談にくるのと、「退職したい気持ちもあるけれど、、、」との精神状態で相談してくるのは全く異なります。前者は介入の余地がなく、後者はまだ話し合いの余地・解決策があるのです。
対処法
採用コンサル時代からよく提案し、実施しているのが「人事の現場配属」。各事業部の大変さを少しでも経験しておくことで、悩み相談に乗る際も共感が得やすく、より本音を引き出しやすい関係が生まれるのです。
「現場配属」では人事に実際に現場に1~2週間単位で出てもらい、「今その部門ではどういう仕事を誰がどのように行っているのか」「どんな意思決定をしているのか」「何に頑張っているのか」を感じ取ってもらいます。
ミーティングに参加して意見を言ったり、外部の打合せに出たりと実際に成果も求められるのでただの「体験」で終わりません。経営理念やクレドは大事。しかし社員が悩むのはそういう大きな枠組みではなく、常に小さい疑問の積み重ねであることを忘れてはいけません。
具体例
実際にこの制度を導入したところ、平均で人事への相談回数はそれまでの1.5倍ほどになり、企業によっては離職率を大幅に低減できたケースもあります。
「1~2週間で何がわかるのか」との疑問もあるでしょう。しかし「経験で知ること」と「座学で知ること」は理解度に大きな差があります。
何より一度でもその現場で同じ経験をすることで顔を覚えてもらい、業務の理解があることで「悩みを相談しやすい人」になれるのです。
最後に
人事と現場、それぞれの役割があり相互補助の関係であることを忘れてはいけません。新入社員には、「押し付けず、特性を捉え、自分が最初に理解を追求していく」立場を忘れずに接するようにすれば、少なくとも新入社員からすれば悪くない会社だと感じてくれると思います。
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