「ラポール形成」とはコミュニケーションの大事なスキルの1つ。
もともとは心理療法の世界で使われているスキルですが、現在はビジネスの世界でも役立つスキルとして注目されています。このスキルを使えば初対面の人とでも円滑にコミュニケーションがとれるようになるのです。
ラポール形成はちょっとしたテクニックで実現できるもの。
この記事を参考にラポール形成のテクニックを身につけ、上司や同僚、クライアントと良い関係を築いていきましょう。
目次
ラポール形成とは
「ラポール」はもともと「橋を架ける」という意味のフランス語。人と人との信頼関係を表す言葉です。
心理療法の世界ではクライアントとの関連性を「ラポール」、信頼関係を築くことを「ラポールを形成する」と言います。
クライアントとの信頼関係が成り立っていなければどんなテクニックも機能しないので、ラポール形成はすべての療法のベースとも言えるでしょう。
例えば、母親から「座って食べなさい」と言われれば子どもは座って食べるでしょう。この行動の背景にはラポール形成があります。信頼関係があるからこそ子は親の言う通りに行動するのです。
この「ラポール形成」は今、ビジネスの世界でも注目されています。
どんな仕事も人とのつながりで成り立つもの。取引先、上司、同僚、誰に対しても良好な信頼関係を築くことは仕事の成功につながります。
ラポールが形成されるとすれ違いや誤解が生まれにくく仕事が円滑に進むようになるのです。
ラポール形成の基本テクニック
家族や親友など無意識にラポールが形成されている間柄もありますが、ビジネスでは意図的にラポールを形成した方が良い場面が多いはず。
カウンセリングで利用されるテクニックをヒントにビジネスシーンにおけるラポール形成のテクニックを紹介します。
キーワードは「共感」と「受容」です。
ミラーリング
「ミラーリング」とは共感性を深めるために相手の仕草や姿勢を鏡に映すようにまねること。話をしている時に相手が右手を机の上に置いたら、自分は左手を机の上に出すといった行動です。
人は自分と同じ行動に対して共感します。偶然職場で同じ色の服を着ているだけで親しみが湧く経験はありませんか。「自分と同じだ」と思うだけで安心感が生まれるのです。
このミラーリングの重要なポイントは「さりげなく」。真似されていると気づかれてしまうと効果はなくなってしまいます。
カウンセラーのような専門家ではない人にとっては難しいテクニックなので、いきなり1対1の対面した会話に使用するのはおすすめできません。
まずは通勤電車の中でこっそりミラーリングの練習しましょう。足を組む向き、髪をかきあげる仕草、カバンの持ち方など、少し離れた人の行動を鏡になって真似してみるのです。
練習を繰り返すとさりげなく真似しやすい行動がわかってくるので、それからビジネスシーンで実践してみるとよいでしょう。
バックトラッキング
バックトラッキングは「オウム返し」。相手の使った言葉をそのまま使うことで、相手の共感性を深められます。
「ショックだった」と聞くと、つい「どうしたの?」と聞きたくなりますよね。
そこで質問の前に「ショックだったんだ」と繰り返すのがバックトラッキング。まずは相手の言葉を繰り返すことによって相手の気持ちを受け止めたことが伝わり安心感が生まれるのです。
ミラーリングと同じように単に繰り返しているだけでは、わざとやっているとバレてしまい大きな効果は期待できません。
相手の言葉の中にあるキーワードは外さないようにしながら、工夫して応答することが大事です。
キーワードをそのまま繰り返す以外にも相手が「こんな言葉を言われちゃった」と言ったら、「辛かったね」などとその時の感情を繰り返すことで共感してあげるのも有効。
相手の発言を「つまり~ってことだよね」とまとめてみるのもよいでしょう。
マッチング
「マッチング」は相手を受容する行為で、「何となくこの人と合う」と相手に感じさせるテクニックです。
好きな食べ物が同じだったり、オフの時間の過ごし方が似ていたりすると親近感が湧きますよね。「相性がいい」と思わせる行動がマッチングです。
マッチングも「さりげなく」が重要ポイント。無理に合わせることはありません。ビジネスシーンでは、偶然を装って相手に合わせるのは難しいこともあるでしょう。
例えば呼吸のスピードはさりげなく合わせられる代表的なもの。相手のペースに合わせて呼吸をすることで雰囲気の一体感を作りだせます。
呼吸のスピードを合わせ相手の話をよく聞き、相手のペースを掴みましょう。自分から話す時にはさりげなく相手と同じ言葉を使って、相手のペースに合わせて話をすることでより安心感を与えられます。
呼吸のペースを合わせるためにまずは不特定多数の人がいる通勤電車の中で、肩や胸、腹部などを観察して自分以外の人の呼吸を感じ、練習してみましょう。
キャリブレーション
「キャリブレーション」は一般的に「調整する」などの意味を持ちますが、ソーシャルスキルでは相手を観察することを言います。
ミラーリングなどの他のテクニックも、丁寧なキャリブレーションがあってこそできるテクニック。
表情
肌の色(頬があかくなる、青ざめるなど)
目の動き、瞳孔の拡張
声の大きさ、トーン
このような細かい仕草の変化に気づけると、相手の微妙な心境の変化がわかるようになり、効果的にテクニックを活用してラポールを形成できます。
ラポール形成のために心がけること
次のことを日常的に気をつけていると、ラポールは形成しやすくなります。
自分を認める
ラポール形成の第一歩は自分を受け入れる、自己受容。
「自分はダメな人間だ」と思っていると他人に自分のことをさらけ出す勇気など出ませんね。また、相手を羨ましいと思うばかりで相手のことを受け入れるのも難しいでしょう。
日頃から失敗しても自己否定せず自己肯定感を保つ意識が大切です。
Let It Go!ありのままの自分を受け入れて!自己受容の意味と方法
笑顔を心がける
笑顔は相手に「自分を認めてくれた」という肯定感を与えます。
笑顔で「おはようございます」と言われたら嬉しい気持ちになるのは、自分を受け入れてもらえたと感じるからです。
無表情で挨拶も返してもらえなかったら「何か悪いことをしたかしら」と誰でも不安になりますね。円滑なコミュニケーションのためにも笑顔で接するように心がけましょう。
ただし場にふさわしくない、わざとらしい笑顔はかえって不快感を与えてしまうので注意が必要です。
傾聴の姿勢を大切にする
ラポール形成には相手を尊重することも大切なので、傾聴を心がけましょう。
傾聴とは簡単に言えば「話をよく聞くこと」。相手を大切な人と思って肯定的によく聞くことです。自分と異なる意見であってもまずは全部聞きましょう。
無理に自分の意見に従わせようとするなど自己中心的な考えはNG。相手の意見をよく聞き、尊重する習慣をつけましょう。
話のペースを意識する
日頃から相手と自分の話すペースを意識しているとラポールは形成やすくなります。
楽しい話をする時は興奮して早口になってしまいますよね。落ち込んでいる時は小声でぽつりぽつり。話の内容やその人の気持ちによって話のペースは変化します。
小声でゆっくり話しているのに、はきはきと明るい声で返事をされると戸惑いますね。違うペースで返事をされると自分の話が伝わっているのか不安になるのです。
お互いのペースを意識することで違和感なく話が進みやすくなります。
ラポール形成のポイント
ソーシャルスキルとしてラポール形成は大切なものの1つですが、カウンセラーなどの専門家ではない人がテクニックを使うのは簡単な事ではありません。
ラポール形成のためのポイントを押さえておきましょう。
さりげなく行う
最も重要かつ最も難しいポイントが「さりげなく」。ラポール形成は信頼関係を築くことですから信頼されなくなったら全てが水のあわ。
自分の真似ばかりする人に対しては誰でも警戒心を持つでしょう。「なぜだかわからないけれど、似たようなことが多い」と感じさせるテクニックがラポール形成には必要です。
どうしても成功させたい商談にラポール形成を役立てられるよう、日々、通勤電車でテクニックを磨きましょう。
受け入れる
ラポール形成で重要な事は「受容」、受け入れることです。
意見を合わせる必要があるからと言って自分の意見を押し付けるのはNG。相手の意見や考え方を受け入れた上で意見交換していかなければ信頼関係は成立しません。
相手を尊重するあまり自分を否定することもNG。自分のこともありのままに受け入れておかないと相手のことも受け入れられません。
相手のことも自分のことも大切に思ってコミュニケーションを図ることでラポールは形成されていきます。
焦らない
ラポール形成にはある程度時間がかかると覚悟しましょう。そもそも相性が合う人であれば比較的短い時間で成功しますが、多くの場合そうはいきません。
テクニックを使っても他人と心を通じ合わせることは簡単ではないので、焦らないようにしましょう。
先ほど紹介したラポール形成のためのテクニックのみに頼らず、実直な姿勢で丁寧なコミュニケーションを心がけることを忘れずにしてください。